

物事にはなんでも始まりというものがある。国の始まりは、伊弉諾命(いざなぎ)と伊弉冉命(いざなみ)。人間の始まりは、アダムとイブと相場が決まっている。では、酒の始まりはどうだろうか。「人類で最も優れた発明は酒である」という名言があるが、まったく同感。中国の『漢書・食貨志』には、「酒は天から賜った美禄」と書かれているではないか。
昔々、中国の夏(か)という国に禹(う)という王様がいた。この王様、聖人君主を絵に描いたような人で、道路建設や農地開拓に力を注いだほか、税金を軽減するなど庶民の暮らし向きにも心配りを怠らなかったという。あるとき、儀狄(ぎてき)という人が禹王を訪ねて、これまで見たこともない不思議な飲みものを献上した。訪問者に勧められるまま、禹王がその酒を飲んでみると、さわやかな香りが口に広がり、甘美でとろけるような心地よさが心身を覆い包む。だが、禹王は「こんなうまいものは、きっと後世に害をなすであろう」と憂いて、以来、儀狄を遠ざけるようになったという。
禹王の意思に反して、その後、酒は全世界の人たちに最も愛される飲み物となったのはご承知のとおり。夏のあとを継いだ殷(いん)という国の遺跡から、亀甲に書かれた「酒」という文字が見つかっていることから、少なくとも3000年前には作られていたと推察されている。時代は下って、今では日本酒、ビール、焼酎にワイン、第3のビールなんてものも登場した。「俺だって、ホントはお酒を飲みたかったのに…」なんて、禹王さんのボヤキがどこからか聞こえてきそうですね。
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