

“酒は百薬の長”という。酒飲みにとって、これは誠に便利な言葉。奥サマから飲みすぎを注意されたって、「なあに、酒は健康に良いんだよ。ほれ、百薬の長って言うじゃない」なんて、いつでも言い訳できるのだから。
だが、世の中はうまくできているもので、ちゃんとその反対語も存在する。それが、“酒は百毒の長”という金言。言い出しっぺは、鎌倉時代の随筆家として知られる吉田兼好さん(1283〜1350)である。代表作の『徒然草(第百七十五段)』のなかで、「何かあればまず酒を勧めて強いて飲ませようとするが、それはいかがなものだろうか。酒は百薬の長だというが、万病は酒がもとで起こることが多いではないか。嫌なことを忘れるというけれど、酔っぱらった人は昔のことを思い出してメソメソ泣いたりする。誠に哀れなことよなあ…」と感慨深げに述べているのだ。
兼好法師はもともと神職の家に生まれ、上皇に仕える北面の武士として活躍したが、世の中に諸行無常を感じて、突然出家し隠者のような生活を過ごしたという。察するに、お酒があまりお好きでなかったらしい。お酒を飲んで、騒ぎ立てる酔っぱらいに苦言を呈したりしている。それにしても、お酒を飲んで泣いたり、笑ったり、グチをこぼしたり…。現代も鎌倉時代も、宴会の風景ってあまり変わらないものなんですね。
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