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特集(2)わがまちの輝き見つけ隊 vol.24
 わがまちの輝き見つけ隊は、夏休みにかけて梅田スカイビルで開催されている、造形作家南條亮さんによる「人間、この愚かですばらしきもの展」を訪ねました。
 南條さんのアトリエは安治川にあるということで、阪神なんば線でつながるエリアで活躍される匠の取材を兼ねて展示会場を訪ねたものです。
 今回はこの作品展を中心に、南條さんのインタビューを加えて2回シリーズでご紹介しましょう。
   
はじまりは大阪から…「人間、この愚かですばらしきもの展」(その1)

◇人とまちへのあたたかな眼差しを感じたい
 

 昨今、私達のくらしの周囲では、環境問題の深刻化や社会経済の悪化、格差社会問題といったグローバルな話題に始まり、災害や社会保障への不安、教育現場の崩壊、無差別殺人事件、親殺し子殺し、虐待、近隣コミュニティの崩壊等々、心に寂しい風の吹く出来事ばかりが増えつつあります。
 どこかに心安らぐ温かな話題はないか?日々荒みつつあるように見える人の心にも清らかな水脈が残っているのだ、と実感できる出来事を探して訪ねたのが、「人間、この愚かですばらしきもの展」でありました。
 20世紀という時代は終わった。
世界史の中でも、かつてこれほどの激動の時代はなかった。
2度の世界大戦と、多くの民族間の争い、そして地球上の汚染を急速に進めてしまった世紀。
 しかし、そこから学びとって、これからは、地球上の全ての生き物に優しい生き方こそ、人間にとっても有意義な生き方であると、ようやく解りかけてきたのである。
日本に限っていえば、明治・大正・昭和という三つの時代が過ぎた。
この過ぎてしまった三つの時代を、もう一度見直す事は単なる感傷からだけではない。
ようやく物質的に豊かになってきたのに、現代のこの精神的焦燥感は何なのだろうか?人間にとって一番大事なものは何なのだろうか?
生命さえ保証されない激動の時代を生きた人々は、どんな風に生き抜いてきたのだろうか。
新しい世紀の始まりにあたって、私達はもう一度考えてみなくてはならない、これらの難解な、そして大事な問題。
これまでのそしてこれからの人間をテーマにして、私は人形達を作り続けていこうと思う。
明治・大正・昭和の激動の時代を一生懸命生きた、名もなく、貧しく、したたかな庶民達が主人公だ(南條 亮)

 この展示開催主旨を、南條さんはそうまとめられています。
 戦争を知らず、核家族生活があたり前の世に生きる私達にとっては、高度経済成長期よりももっと前の激動の時代を逞しく生き抜いた人の言葉を間近に感じる機会にも、なかなか出会うことはありません。そのような人々がくらす姿のなかには、きっと今日忘れ去られてしまった輝きが埋もれているように思えて仕方がありません。昨今の昭和ブームや「三丁目の夕日」が人々の憧れを誘うわけも、そういう流れの中に起因しているように感じるわけです。

◇単なるノスタルジーでは語りきれない物語
 

 会場に入ってすぐ眼前に拡がるのは、焦土と化した大阪のまちの姿でした。実物の約1/8スケールで表現されるジオラマはかなりの迫力で、破壊され尽くしたまちの無惨な姿が迫ってきました。これぐらいの大きさになると、人形の表情まではっきりと読み取れるようで、苦痛にゆがむ表情や虚ろな表情でまちを彷徨う人々の姿がリアルに再現されていました。壁面の絵コンテでは、戦争孤児の兄妹が遠くに住むおばあちゃんを訪ねて放浪する物語が展開されていきます。
 しばらく戦争の愚かさを伝える展示が続いた後、場面は戦前のくらしに移っていきます。
立体写真のように切り取られた人々の生活や遊びに興じる子供たちの姿、物売りやまちなかの職人さん達、どうやって使うのか探求したくなるような生活道具の数々。
 やわらかな地道と低い家並み、様々な人のくらしがまちなかに滲みだし、まちのあちこちが子供の遊び場だった時代。プライバシーや眺望権、セキュリティなんておかまいなしの活気ある生活風景のなかには、みなで分かち合う幸せが漂っているように感じられました。
 ジオラマの各所にはさりげなく小さなボタンが設置されており、これを押すと電車が動き出したり、屋根がスライドして家の中を垣間見ることが出来たり、まちなかの人々が動き出し、様々なおしゃべりやくらしの音があふれ出す楽しい仕掛けがなされているのでした。
 展示の最後は、影絵の世界でした。板塀の横丁風にしつらえられた通路を、影絵を見ながら進んでいくと、懐かしい子供の頃に帰って行くような気分になりました。なんとも例えようのない気持ちにさせるものは一体何なのでしょうか…

◇20世紀という時代の集約からはじめたい
 ライフワークは「いのち」の語り部
 

 これまで全国の数々の博覧会や商業施設等の展示制作を手がけてきた南條さんは、バブル経済崩壊を経て、30代の頃から温めてきたこのジオラマ展示構想をいよいよ実現すべき時期が来たと実感されたそうです。
 「若い頃はひたすら請負の展示制作に邁進してきましたが、バブル崩壊後は同業者の倒産や仕事仲間の自殺が相次ぎ、経済至上主義の世の中に対する疑問がますます募る一方で、50代を迎えた自分の行く末を考えると、『このまま喰うためだけにものづくりに取り組むのでは情けない。自分にしかできないことをやってみよう』と思ったわけです」と南條さん。
 それからは仕事の合間に不眠不休で製作に励み、2001年に大阪府立現代美術センターでの開催が決定してからは、テレビや新聞社に開催告知を依頼するため飛び込みで説得を続けるなどの苦労を経て、当初の「内容がシリアスすぎて一般受けしない」との批判も吹き飛ばし、約4,000人もの来場客が訪れる作品展になったとのこと。
 その後は各地の開催要望を受けて巡回展を行い、今回の開催で約19回目を迎えるのだそうです。
 「このシリーズ展は郷愁やロマンだけで当時の生活文化を再現するのではなく、何かが歪んでしまったこの時代のくらしや生き方を考え、希薄化する社会や人と人の関係をつなぐきっかけにしてほしいという願いで行っているものです。法人・個人を問わず、作品展に関心を持ってくれ、開催を要望されるなら出来る限り応じたい」
 とはいえ、ジオラマ製作には果てしない時間を要するもので、とりわけ人物製作には手間がかかり、3年間で約360体を仕上げてこられたとか。今回の作品展には、計900体が様々なシーンで躍動感を演出してくれます。
 また、今回初の試みとして、毎日会場にてジオラマ製作体験のできるワークショップが実施されています。
 「日本にとって20世紀とは、明治・大正・昭和と3つの時代を駆け抜け、近代化の波や戦争を経て激変した時代です。現代を生きる私達にとって一番身近な歴史であるはずが、その他の時代の歴史に比べると、なぜかきちんと語り継がれていないように感じ、20世紀の集約作業が必要なんだと感じたわけです」
 確かにかつての歴史教育を思い出してみても、20世紀の歴史は駆け足で通り過ぎ、記憶に残っているのは戦争と高度経済成長という2つの出来事に集約されてしまっていることに気づかされました。
 「今回の作品展から、郷愁や哀愁、生活の匂いを感じとっていただきたい。そして真の優しさとは?本物の豊かさとは?教育とは?人間とは?そんな疑問を感じてほしい。21世紀を生きる私達が、この問題を自分自身の問題として、一人一人が真剣に取り組んで考えていくなら、必ず未来は『希望のもてる輝かしい時代になる』と信じているのです」と南條さん。
 ぜひ会期中にご家族や友人を誘って会場に足を運び、作品世界を体感してみられることをお勧めします。(次回に続きます)

会期 2008年7月20日(日)〜9月15日(月)
会場 梅田スカイビル タワーイースト5Fイベントスペース
開館時間 11:00AM〜7:00PM
入場料 一般・大中高生500円(400円)、小学生300円(200円)
※( )内は20名以上の団体料金
問合せ 株式会社ディグ 大阪市西区安治川1-2-50
tel.06-6583-6245
   
<ちょっと豆知識>

大阪の中心地は安治川にあった?
 1684年河村瑞賢による九条島の開削からはじまった安治川は、20世紀の最初から最後までのほぼ100年間、工業化時代の大阪を支え続け、また経済の中心地となった地でもあります。
  1868年 大阪開港・川口に居留地ができる 
  1874年 廃藩置県により大阪府が誕生。府庁が江之子島に建設
       ※府庁所在地として江之子島が選ばれたのは、川口居留地に近く、西欧文化や制度を移入するに好適であったこと、
         大阪は将来西に向かって発展すると予想されたためであったという
  1899年 川口居留地廃止、大阪市庁舎が江之子島に建設
  1881年 大阪鉄工所操業
  1883年 大阪紡績操業
  1931年 大阪市中央卸売市場開場(雑喉場の魚市を吸収して開設)
 安治川を主な舞台とした大阪の近代化の歴史を知る参考図書としては、西山卯三著「安治川物語―鉄工職人夘之助と明治の大阪」、宮本輝著「泥の河」などがお勧めです。

 ○ 大阪の都市風景(江之子島府庁)
http://homepage3.nifty.com/kindaikenchiku-yuuho/sakusaku/1_3.htm

   

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