
『庚申さん』と呼ばれるお守りが軒先にぶら下がる奈良町界隈は、江戸時代から続くまちの歴史や庶民の暮らしをいまに伝えます。奈良市史資料館の向かいにある『あしびの郷』は、江戸時代末期に創業した奈良漬の老舗『あしびや本舗』がプロデュースした多目的空間。老舗の風格が漂う木造の建物には、奈良漬や漬物、奈良晒などの工芸品を販売するギャラリーのほか、食事処が設けられています。
散策に訪れた人たちが、おみやげに買って帰るという奈良漬は、良質の米と米麹からつくられた純正酒粕が醸す深いコクと香りが特徴。「奈良漬のおいしさは、漬け込む原材料の質や製造技術はもちろん、酒粕の質によって大きく変わります」。そう語るのは、『あしびや本舗』代表取締役の西田素康さん。酒粕=ただの絞り粕と思うかもしれませんが、醸造するお酒によって硬さや軟らかさ、風味もまったく異なるというから侮れません。
「最近のお酒は機械絞りが主流ですが、昔ながらの木製の絞り機でしぼったあとに出る酒かすには、旨み成分が多く含まれています。いまとなっては蔵元の酒粕はとても貴重ですが、やはり丁寧につくられたお酒からは、上質な酒粕が出ますね」。現在使っているのは、奈良、新潟、伏見の蔵元から仕入れた酒粕をブレンドしたもの。この酒粕を樽に入れて踏み込んだあと、密封して貯蔵・熟成させたものを踏込粕といいます。酒粕は空気に長期間さらされると、カビなどの微生物が繁殖しやすいため、踏み込んで空気を追い出すそうです。
| 「酒粕の仕込みは毎年12月に行います。このときの踏み込み方によって、仕上がりが変わってきますから気は抜けません。製造現場では、毎年熟練した職人が踏み込んでいます」。冬に仕込んだ酒粕は冷蔵庫でひと夏寝かせてから、荒塩でもんだ瓜や胡瓜などの原材料を漬け込みます。『あしびや本舗』では、1年半という長い時間をかけて、酒粕の塩の濃さを変え数回に分けて漬け込み、原材料に酒粕の成分をじっくりと浸透させています。なるほど、濃い黄金色に輝き、上品な香りと深いコクがある奈良漬は、職人さんの丁寧な仕事から生まれていることを実感! |
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ひと昔前は奈良漬といえば、ご存じ色がまっ黒で塩分の強いものが主流でしたが、時代の流れとともにヘルシー志向に。塩分控えめで、サラダ感覚で食べられるものが支持されるようになってきたようです。芳醇な香りと味わいをもつ奈良漬は、お酒のアテにもぴったり。今日の晩酌は、じっくりと酒粕の旨みが浸み込んだ奈良漬で楽しんではいかが?

第11回の特集コラムで奈良漬の歴史に少し触れましたが、奈良時代、にごり酒に白瓜を漬けた『どぶろく漬け』が奈良漬のはじまりという説も。お酒に直に漬け込むことから、現在の奈良漬とは違って色が薄く、酸味の強い味だったことが想像できます。いまではすっかり庶民の味として普及していますが、当時は貴族の間で香りを楽しむための「香の物」として珍重されたとか。
その後、朝廷に出入りする高級武士や医者に広まり、現在の奈良漬の原型ができたのは江戸時代。糸屋宗仙という医者が、奈良漬づくりの幕府御用商人に選ばれたと伝えられています。この糸屋宗仙を江戸に呼び寄せたのは、徳川家康だったとか。大阪夏の陣で献上された奈良漬の味が忘れられず、奈良から呼び寄せたといいます。このほか、日本初の実測地図を作成した伊能忠敬も好物だったようで、奈良漬にもお酒と同様、人の心を虜にする力が秘められているかもしれませんネ。 |
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じっくりと時間をかけて漬け込んだ奈良漬は、濃い黄金色をしています。 |
老舗の風格を放つ『あしびや本舗』。 |
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のどかな雰囲気の庭園。ひと昔前は漬物の樽を運ぶトロッコが往来していました。 |
奈良漬のほか、白菜、セロリ、大根、茄子などの浅漬けも人気があります。 |
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食事処では『おつけもの御膳』ほか、漬物の盛り合わせ(写真)も味わえます。 |

今回ご紹介した『あしびの郷』は、テラス席のあるふれあい広場やギャラリー、イベントスペースを併設した、手づくりの多目的空間です。常時、コンサートやイベントを開催するほか、定例のアマチュア落語会『奈良町賑亭』は、毎回楽しみにしているお客さんも。親子で高座を盛り上げる桐畑さん一家ほか、個性豊かな出演陣が粋な笑いをお届けします。
次回開催日/
5月18日(金) 19:00〜
入場料:500円
お問い合わせ/
あしびの郷 電話 0742-26-6662
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